かつての私は、建築会社の犬でした。
私が設計事務所として起業したのは1985年のことです。
今からは想像しづらいかもしれませんが、当時はネットはおろか、ケイタイもありませんでした。
「独立はしたけど、どうして仕事を探したら良いのか・・・」
まさかテレビCMを打つわけもいかず、建築雑誌に作品を載せるにもお金がいるので、できません。
そこで私は建築会社を訪問し、設計の仕事を手伝わせてもらうようお願いしました。
当時はバブルで建築会社は大盛況でしたので、「渡りに船」とばかりに顧客を紹介してくれました。
私の仕事は、顧客の要望を聞いて設計図をつくって建築会社に渡すというものです。
建築会社の営業マンは私を顧客(建て主)に合わせて「この先生は気さくで親切ですから、なんでもご要望をおっしゃってくださいね」と紹介してくれました。
自分で言うのもなんですが、実直そうな私を見て顧客は安心して、いろいろと要望を話してくれたものです。
ここまでお読みになって、あなたは「問題有!」と感じましたか?
特に問題なさそうです、よね?
ところが、大問題が発生したのです! しかも水面下で。
顧客(建て主)の要望をそのまま聞いていたのでは、建築会社は儲かりません。
たとえば玄関ドアや窓、システムキッチンやバス・・・などなど、
うまい理由を作って建築会社が儲かる仕入先のものを使うようにリードしなければなりません。
さらに、建築会社が建てやすい形の家、要するに建築会社が儲かる間取りやデザインにしていかないと、設計料をもらえません。
もし私が建築会社の社員だったら、上記は当たり前のことでしょう。
しかし私は、新米とはいえ独立した設計事務所です。
建築会社の営業マンは、私がいかにも顧客(建て主)の味方だと思わせておいて実は建築会社の味方であるという、
顧客(建て主)に対する裏切り行為、背信行為を要求してきたわけです。
私はそれが嫌でイヤで・・・すぐにでもやめたいと思いました。
でも結婚して2年目の私は、義父と義母に「幸せにします!」と断言した新妻と、そのお腹に芽生えた新しい命を抱えていました。
正義を貫いたあげく、妻子を餓死させるわけにいきません。なんとしてもミルク代を稼がないといけないのです。
そこで私は、建築会社をある程度納得させながら、顧客が喜んでくれる家を設計するように、工夫に工夫を重ねました。
顧客(建て主)と建築会社の板挟みになり、悩みに悩み、「これも生きるため」と自分に言い聞かせて、なんとか飯を食ってきました。
しかし、そのストレスと罪悪感が積もりにつもって、ついに爆発したのです。
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